2009年11月17日火曜日

家具の音楽


音楽家に、エリック・サティという人がいる。
私にしてはめずらしく、クラシックで「好きだ」と言える唯一の作曲家かもしれない。
だいたいにおいて私は部屋で音楽をかけることはない。
「ながら」が好きではない私は、考え事や読書をするときに音があるのを好まない。
だから音楽を聴くときには「これから音楽を聴きます」という体勢に入ってから聴く。
そうして大抵、通勤の時にはJ-POP、休日の夜はJAZZと決めていて、クラシックを聴くことなど月に数える程度しかない。
そんな私が、気まぐれに流すのではなく、「これが聴きたい」と思って聴く唯一のクラシックがエリック・サティのピアノ曲だ。

彼の音楽は多くの人が、CMやいろんな場面で聞いたことがあるだろう。
クラシックと言う言葉から連想する音楽とはすこしかけ離れた・・・
音楽に詳しくない私でさえ、どこか変調を用いた、すこし風変わりな音楽だな、と思う。

しかし、風変わりなはずの音楽は、まるで自己を主張しない。
どこか、座りが悪いような、噛み合わせが悪いような、そんな居心地の悪さを醸し出しながら、一方で、流れていてもまったく邪魔にならない・・・その点で、いわゆるオーケストラなどのドラマチックなクラシックとも、ショパンやシューベルトの華やかな軽やかなピアノ曲ともまた違っている。

家具の音楽。

音楽はロビーに添えつけられた椅子のようなもの。
そこにあることを意識する必要がまったくなく、私達の生活を遮り邪魔するようなものではない。
サティは音楽をそう表現したことがある。

変わり者と言われたサティの音楽は、私の部屋に静かに流れる。
華麗でも重厚でもロマンチックでもなく。
流れていることをふと忘れてしまうような気安さで。

心が疲れたときには、サティの曲を聴く。
頭のなかを空っぽにしたいときには、サティの「家具の音楽」で頭のなかをいっぱいに満たす。

なにもかもを静けさで塗り替えるような、そんな、音楽。
それが私にとってのエリック・サティ。

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