2009年12月8日火曜日

浅草の洋食屋さん



私にとって、洋食と言えば、ハンバーグステーキ。
母上が作ってくれるハンバーグにはケチャップなのだが、レストランで食べるハンバーグステーキはデミグラスソース。
ソースの分だけよそいきの雰囲気があって、幼少のみぎりは、レストランに行けば必ずと言っていいほどハンバーグステーキだった。
私の記憶にある洋食屋さんはMEIJIYA、それから、10階立てビルの最上階、くるくる回る展望レストランチサン。
もうどちらも無くなってしまったけれど。
ことに子どもの頃は展望レストランに連れて行ってもらえるとなるとソワソワうきうきしたものだ。
展望レストランでは必ず運試しをした。
なにかというと、着くなり、窓際に楊枝が入っていた袋を丸めて置く。
店員さんに見つからず、無事に一周してまた私の手元に戻ってくれば私の勝ち。
残念ながら途中で見つかって片付けられたら負け。
だけど、回るレストランはどこからがスタートなのかが分からず、目印がなくなってしまうと何周したか分からず、ぐるぐる回る窓の桟をずっと見つめていた。
それは、大人から見たら単なる悪戯だけれど、子どもの私にとってはめったに巡ってこない真剣勝負の一瞬だった。
見つかれば母に叱られる。
見つからなくても店員さんが済ました顔で大人にとってはゴミ以外のなにものでもないそれを片付けてしまう。
スリリングなひと時だった。

さて。
そういった田舎の洋食屋さんはしかし、今思うに、ファミリーレストランをちょっと見栄えよくしたものに過ぎなかった。
池波正太郎のエッセイはもちろん、明治の文人達の食を書いた「文人悪食」という本を読むと、西洋文明が日本に流れ込み、西洋が憧れであり目標であった頃の由緒正しき(?)洋食店が名前を連ねている。

一度、この、由緒正しき正統派洋食(そんなものがあるのか)が食べてみたい。
そう思いつつ、上京以来この方、一度もお眼にかかったことがなかった。
洋食よりもイタリアンだ、フレンチだと、かぶれてうつつを抜かしていたからだ。

さて、浅草。
浅草に行くからには、今度こそ・・・!
しかし私はそば好きでもあって、浅草に行くとあちこちに美味しそうな蕎麦屋がのれんを出しており、つい蕎麦屋にふらふらと入っていってしまう。
今度もかなり並木藪そばに惹かれたが・・・しかし、初志貫徹。

最後まで迷ったのは、永井荷風が足しげく通った「アリゾナキッチン」にするか、それともガイドブックを見て一目で気に入った「フジキッチン」にするか。
ちなみにこういった場合の私の食に対する勘というものは非常に優れていて、第一印象で「美味しそう!食べたい!」と思ったお店で「はずれだ・・・」と思ったことはない。
よって、非常にフジキッチンに惹かれる。
しかし、永井荷風だ。永井荷風が通った店、一度は行ってみたいじゃないか。
しかもアリゾナキッチンは、2001年くらいに一度、閉店したことがある。
もしかしたら・・・・・・いやいや、これ以上は言うまい。
悩みに悩んで・・・・・・これから先、また洋食を食べにくることがあるかないか、分からない。
だったら後悔したくない!自分の自慢の勘に頼ってみようじゃないか!

というわけで、フジキッチン、行ってきました!・・・と言っても行ったのは日曜日だったのですが(笑)。
すごく狭い。
狭いったら狭い。
狭いスペースをこれまた無駄なく十分に活用しているため、満席時(といってもいつも満席、外には行列、なんだが)はみなが非常に窮屈な思いをしながら食事をすることになる。

ところで、私が頼みたいメニューは席に着く前から決まっている。
ビーフシチューだ!!
・・・・・・え?ハンバーグステーキじゃないのかって?
そう。そうなのです。ハンバーグステーキではないのです。
そもそも私は普段からあまりビーフシチューを食べない。
しかし。
憧れの洋食は「ビーフシチュー」なのである。
ハンバーグステーキは好みなのだが、好んで食べているだけに、なんとなく普段着感覚になってしまっており、いつでも食べられるし・・・的な食べ物にカテゴリー換えされてしまった。
また、いろんな洋食屋さんの記事を見たが、大抵のお店の自慢の一品は「一週間煮込んでとろとろに蕩ける牛肉とデミグラスソースのビーフシチュー!」なのだ。
お値段も、ビーフシチューとそのほかの洋食メニューでは二倍近く違う。

というわけで憧れの洋食、フジキッチンのビーフシチューを食べて参りました。
説明は不要、めっちゃ美味しい!!こんなビーフシチュー初めて食べた~!!(そもそもビーフシチュー自体以下同文・・・・・・)
なによりも、料理人の方が、亡くなった祖父を彷彿とさせる上品な白髪の寡黙で華奢なおじい様でした。
戦後開店したというので、六十年余り。
おじいさんが黙々と煮込んできたシチューは、絶品。
やはり私の勘に狂いはない!(笑)

また食べに行きたい。
今度は車海老のエビフライを食べるんだ!!
それまで元気でいてくださいね、おじいちゃん。

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